遺言について
遺言とは
遺言は法律上は「いごん」といいます。ただ、一般の方であれば「ゆいごん」といって差し支えありません。遺言者が生前に意思を表明する法律上の文書で、遺言者が自身で作成する自筆証書遺言と、公証人が関わって作成する公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
遺言事項と付言事項
遺言で法的な効力をもつのは財産関係と身分関係の2つです。遺言事項といいます。それ以外のことを書いても法律的には効力を持ちません。
財産関係では遺産の分割方法を示すことができます。
身分関係では婚外子の認知、未成年の後見人の指定ができます。
遺産相続の紛争を未然に防ぐには遺言は有効な文書となります。遺言がない場合には遺族の協議や民法が定める法定相続分によって分割しますが、故人の意思を尊重するという趣旨から、遺言はそれらに優先します。
ただ、「全財産を○○に譲る」というような遺言がすべて確実に実現できるわけではありません。遺留分を侵害するような遺言であった場合、権利者に異議があれば遺留分減殺請求をすることができます。
遺留分とは、配偶者や子などの直系卑属、親である直系尊属の遺留分権利者が最低限相続できる権利です。
遺言で法的効力を持つのは遺言事項だけですが、遺言者の意思を遺族に伝えるために付言事項を有効に使うことができます。家訓を残したり、葬儀の方法を取り決めたり、事業継承についての思いを残すなど、自由に書くことができます。遺留分を超えるような遺産の分割指示があった場合でも、その理由を書いておくことで無用な遺産相続争いを回避することも期待できます。
遺言を用意する時期
よく「遺言を書くにはまだ早い」という言葉を聞きます。しかし、遺言は遺書とは違います。遺言は遺言人に判断能力があるうちに、財産と身分について意思表示をしておくものです。重篤な病気や重度の認知症などで判断能力を失ってしまった場合には、有効な遺言を書くこともできません。
年齢や健康状態から判断するのではなく、将来起こりうる問題を未然に防ぐという観点から、意思表示をしておく必要を感じられたのなら、元気なうちに遺言を用意しておくべきです。
遺言は気持ちが変わったときには何度でも書き換えることができます。遺言が複数あった場合、日付がもっとも新しいものが有効な遺言として認められます。
遺言作成に関するよくある相談ケース
遺言の目的は、遺言者の意思を遺族に伝えるということです。そして将来起こりうる相続に関する問題を未然に防ぐということです。したがって、以下のような方の場合には、遺言の作成をお勧めします。
相続が揉めることが予想される場合
推定される相続人が多数である場合、相続人に行方不明者がいる場合
遺産の相続は遺言がない場合には権利を持つ相続人全員が協議して遺産分割協議書を作成します。推定相続人に行方不明者がいる、高齢者が多く遠隔地に住んでいる、推定相続人が多数になるなど、遺産分割協議が困難なことがあります。協議が調わない場合、被相続人(亡くなった方)の預貯金口座からの引き出し、口座の解約ができないなどの不都合も生じます。あらかじめ遺言で遺言執行者を決めておくといいでしょう。
財産が住んでいる家・土地のみの場合
たとえば、夫が亡くなり相続財産が居住不動産のみの場合、妻の住処を守るために遺言が必要となることがあります。妻が居住している家を妻と相続人が共同所有することも可能ですが、場合によっては不動産を売却して金銭で分割相続せざるを得ないケースが生じるからです。妻と子どもたちが相続するケースでも金銭による分割が要求されることもありますし、夫婦に子どもがいない場合、夫の親や兄弟にも相続権が発生しますので、不動産売却による分割相続のリスクがより高まることが懸念されます。
被相続人が再婚している場合
先妻との子どもには相続権がありますし(先妻にはありません)、遺留分も認められています。ちなみに、再婚相手の連れ子は、養子縁組をしない限り相続権はありません。誰に財産を残したいかによっては、遺言が必要になります。
養子がいる、養子に出した子がいる場合
迎え入れた養子は実子と同じ権利を持ちます。他家に養子に出した子も相続の権利を持ちます。ただし、法律上の血縁関係を断つ特別養子の場合には、実父母の財産の相続権もなくなります。
世話になった人に篤く報いたい
息子の死亡後も両親の世話をしている息子の妻がいる場合
息子の妻には相続権がありません。世話になっている息子の妻に財産を残すには、養子縁組するか、遺言が必要となります。
被相続人に内縁の妻(または夫)がいる場合
内縁関係である妻または夫には相続の権利は生じません。内縁者に財産を残したい場合には、遺言が必要となります。一方、別居中の配偶者はたとえ離婚協議中であっても相続人となります。また遺留分も認められています。
相続人が一人もいない場合
相続人が誰もいない場合には財産は国庫に入ります。お世話になった人に贈りたい、公益活動団体に贈りたいなどの意思は遺言に書いておく必要があります。
その他
事業継承に関わる相続の場合
事業継承のために事業を継ぐ子に株式や事業用資産を集中させたい場合には、遺言が必要になります。
障がいを持つ子の将来のため多くの遺産を相続させたい場合
障がいを持つ子の将来費用のためにより多くの財産を相続させたい場合、遺言によって遺産分割額を指定しておく必要があります。ただし、遺留分を超えた場合、他の相続人は遺留分減殺請求をすることができます。
お一人様
一人暮らしで、親族ともほとんど交流がない方の中には、家・土地などの財産は換金して分けてもらっていいのだけれど、死後の各種手続や遺品の処分を頼んで迷惑をかけたくないという方もいらっしゃいます。そういう場合には遺言を作成し、信頼のおける人に託しておくといいでしょう。
遺言作成を弁護士へ相談するメリット
法的に有効な遺言が作成できる
自筆証書遺言で大きな壁となるのが、法的に有効となる要件を満たしているかどうかです。日付を書き忘れただけで、遺言としての効力は認められません。法律上の要件を熟知している弁護士に任せれば法的に有効な遺言が作成できます。
ミスやトラブルの種を摘み取り、相続争いを未然に防ぐことができる
遺言の作成時に起こりやすいミスとしては、名称等が不確実で財産が特定できない、記載漏れの財産が多い、記載されていない負債があるなどです。後々、相続人の間でトラブルの種となりかねません。弁護士は逐一確認しながら遺言を作成しますので、こうしたリスクを低減させることができます。
必要であれば税理士や公認会計士、司法書士らと連携
事業継承がからむ遺言の場合、他の専門士業との連携によって的確な遺言作成ができます。
複雑な手続や交渉を弁護士に任せることができる
公正証書遺言の煩雑な手続など弁護士に任せることができます。
遺言作成に関する疑問や悩みの相談ができる
「公平にすべきだろうが、相続分に軽重をつけたい」「家族仲よくという思いをどうしても伝えたい」「このような事業継承にした理由を伝えたい」など遺言者のさまざまな思いを盛り込むために、適切なアドバイスを行います。
遺言のメリット・デメリット
遺言の3つの方式、自筆証書遺言と公正証書遺言、秘密証書遺言それぞれのメリットとデメリットに触れておきましょう。秘密証書遺言はとても面倒であまりメリットもないためほとんど利用されていません。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、内容、日付、氏名ともに自筆し、押印して作成します。「自筆」であるため、ワープロで作成したものや誰かに代筆してもらったものは認められません。
メリット
- いつでも簡単に作成できます。
- いつでも内容を書き換えることができます。
- 遺言の存在・内容を秘密にできます。
- 費用がかかりません。
- 証人の必要がありません。
デメリット
- 自筆で書かなければなりません(ワープロ・代筆は不可)。
- 紛失したり偽造されたりするおそれがあります。
- 発見者に隠されるリスクがあります。
- 遺言の存在が明らかでないため、遺族に気づかれないリスクがあります。
- 方式に不備があると無効となるおそれがあります。
- 開封に検認という裁判所の手続が必要となります。
こんな方にお勧めです
- 費用をかけずに作成したい方
- 遺言の存在を誰にも知らせたくない方
- 遺言の作成に手間をかけたくない方
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人役場に行き公証人に口頭で遺言内容を伝え、作成・保管を依頼する遺言です。弁護士に依頼することもできます。公正証書の作成には手数料が必要です。手数料は相続の対象となる財産額によって異なります。また、2人の証人が必要です。
メリット
- 原本が公証役場で保管されるため、紛失したり、偽造されたりするおそれがありません。
- 遺言の存在を明らかにすることができます。
- 開封時に裁判所の検認手続が不要です。
- 形式の不備のために効力が争われるリスクがほとんどありません。
- 文字が書けなくても作成できます。
デメリット
- 公証人役場に手数料を支払う必要があります。
- 証人2人が必要です。
- 証人に内容が知られてしまいます。
- 手続が煩雑で難しいです。
こんな方にお勧め
- 安全な遺言を作成したい方。
- 自筆をすることが難しい方。
秘密証書遺言
秘密証書遺言も公証人に関わってもらって作成するものですが、内容を秘密にしながら作成することができます。作成した遺言に封をして公証人役場に提出し、封紙に公証人・証人の署名押印を得て完成する遺言です。秘密証書遺言の作成はワープロでも、代筆でも構いません。ただし最低限、署名と押印は自身で行う必要があります。
メリット
- 作成はワープロや代筆でも構いません。
- 偽造のおそれがありません。
- 遺言の内容を秘密にできます。
- 遺言の存在を明らかにすることができます。
デメリット
- 公証人役場に手数料を支払う必要があります。
- 証人が2人必要です。
- 開封には裁判所の検認手続が必要です。
- 内容について争いが生じるリスクがあります。
- 遺言者自身が保管するため、紛失のおそれがあります。
こんな方にお勧め
- 内容は誰にも秘密にしたいけれど存在は明らかにしておきたい方
- 将来の判断力低下に備えておきたい方
弁護士による遺言作成のサポート
遺言作成については弁護士がサポートを行います。以下に大まかな流れを掲載いたします。
さまざまなご要望・事情にお応えすべく、個別に柔軟な対応をいたします。
初回の面談内容
遺言作成の動機
遺言作成の理由・目的、ご自身の死後の心配事などを具体的にお伺いいたします。弁護士には守秘義務がありますので、安心してお話しください。
家族、親族等の確認
相続人と相続人に連なる親族の確認をします。スムーズな相続を実現するためにご家族・ご親族の性格、親族のまとめ役的存在の有無などについてもお伺いいたします。
財産の確認
相続財産についてお伺いします。対象となるのは金銭的に価値のあるものすべてです。現金や預貯金、株式や公社債などの金融資産、土地や家屋、別荘などの不動産、車や書画などの動産など多岐にわたります。
忘れてはならないのが負債です。借金など負の資産も相続の対象となります。すべてお話しください。
財産の全容が分からない場合には、弁護士が財産調査のお手伝いをいたします。
遺言の形式の希望
ご相談者の実情に合わせて、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の最適な形式をご提案いたします。
万一の時の連絡先、治療や葬儀の希望
亡くなられた場合や重病・認知症などで判断能力が低下した場合に、どなたにその後の判断を仰いでほしいのかを伺います。
また、自身で判断できない段階の延命治療や終末期医療、葬儀の形や葬儀の連絡範囲など、ご本人の希望を第三者である弁護士が伺って遺言に反映させたり、ご希望通りに取りはからうなど、遺族の負担を軽減させたりすることもできます。
2回目の面談内容
家族・親族の相続関係図の作成
相続関係図を作成します。
被相続人(遺言者)との続柄を図示し、相続人の住所、生年月日などが記載されます。
正確な相続関係図を作成するため、遺言者については出生からの経過がわかる戸籍謄本、改正原戸籍、除籍謄本が必要です。また、相続人であることがわかるように相続人全員の戸籍謄本、住民票などが必要です。
財産目録の作成
相続財産目録を作成します。
現金や預貯金以外の、不動産や動産、株式や公社債などについては時価で評価した金額を記載します。正の財産だけでなく、借金など負の財産も含め、すべての財産が正確に記載されている必要があります。
遺言作成
遺言の原案の作成
弁護士が遺言の原案を作成します。財産と身分についての遺言事項が正確に記載されているかどうかを確認します。
また、遺言者であるあなたの思いが伝わるものとなっているか、遺言を作成した理由や、家族への思い、感謝の気持ちなどを付言事項として書いておくよう依頼してもいいでしょう。
作成後のサポート
遺言は遺言者の気持ちや状況が変わった際には、いつでも書き換えることができます。定期的に内容を確認し、見直しを図ることも大事です。
さらに、家族構成や相続財産に変化があった場合には、遺言も書き換えが必要になります。
遺言人に定期的にご連絡を入れ、家族構成や財産の異動、見直しの必要性などをお伺いするのも弁護士にサポートを依頼する大きなメリットです。